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介護士コラム~体験談~

看取り介護体験談。最期の前に好きな飲食物を摂取していただこう。

ご利用者様と介護士の関係において、いつかはやってくるお別れの場面(利用中止、ご逝去など)。
ご利用者様の状態が安定していると、穏やかな毎日が続き、お別れの場面は想像しにくいものですが、体調安定していたご利用者様が2~3か月後には体調を崩し、状態が変化するということも、介護業界ではよくある話です。

介護士として「今日、このご利用者様との関わりが、最期になるかもしれない・・・」という考えは、常に意識しておくべき事と言えます。
今回は介護士としての看取り体験談の1例をご紹介します。

ご利用者様、Nさんについて

私の勤めている入所型施設にNさんという女性で頭はしっかりしているご利用者様がいました。
最初に申し上げてしまうと、入所施設約10年間、最期は施設でお看取りをさせていただきました。

ご家族様も協力的で、適度に面会にはこられて、施設内でNさんと会話されたり、Nさんが元気な頃は、ご家族様が車いすを押して、施設近くの近所の公園に散歩に出かけることも、日常のような光景でした。

施設近くの公園に咲くサクラは「花より団子?」

N様が施設に入所されたのは80代半ばでした(ご逝去されたのは90代半ば、天寿全うといってもよいご年齢ではありました)。
入所後、毎年春のあたり前のような光景になっていたのが「ご家族様と一緒に施設近所の公園にサクラを見に行く」ことでした。

N様にとって、サクラを見に行くことが楽しみであったことはもちろんですが、それ以上の楽しみがありました。
それは「サクラ咲く時期に、近所の公園に出店する屋台の焼き鳥を食べ、ノンアルコールビールを飲む」ことでした。まさしく花より団子という感じです。

介護士の人員的に余裕があるときは、N様とご家族様、そこに他ご利用者様と介護士が加わって、散歩がてら花見に行くという感じで、それが毎年あたり前のように、そしていつまでも続く光景のように当時は思えたものでした。

体力低下、自然に落ちた食事摂取量

そんなN様も90代半ばになり、日常生活においては、加齢とともに食事摂取量が少しずつ落ちていくようになりました。
元気な頃は、車いす⇔ベッドは、ご自分で移乗(乗り移り)できていたことも、食事摂取量の低下とともに、介護士の介助が必要になってきました。

病気が原因ではなく、自然に食事摂取量が落ち、同時に体力も低下していきました。
ある意味では人間の天寿の迎え方としては自然だったように思います。

食事摂取量の低下とともに、施設の嘱託医からは栄養剤が処方されるようになりました。
最初のうちは、その栄養剤を飲んで低下した体力を維持しているかのようなN様でしたが、やがてN様より「理由はないけど、いろんなものを食べる気も飲む気もしなくなってきた」という発言が聞かれるようになりました。

いつしかN様は、ベッド上中心の生活となり、食事はほとんど口にしなくなりました。

「焼き鳥とノンアルコールビール」がモチベーションアップに

そんな中、いつものように春を感じる季節となってきました。

N様の居室は、毎年サクラを見に行く近所の公園が見える位置にあります。
その公園で焼き鳥屋の屋台が準備を開始したときのことです。N様からこんな発言がありました。

「毎年のように、焼き鳥とビールなら食べて飲める気がする」

その前後のご家族様と施設間の状況としては、まさしく「看取り介護」について、嘱託医の先生も交えて何度も話し合いを繰り返している状況でした。

N様担当の介護士から、嘱託医の先生に「焼き鳥が食べたい、ビールが飲みたいと言っています。
人生最後の焼き鳥とノンアルコールビールになるかもしれないので、なんとか許可してもらえないでしょうか?」とかけあいました。もちろん、その場にはご家族様もいる場面です。

嘱託医の先生から「ご本人が食べたい、飲みたいものを喉につまらせない程度に摂取させてあげなさい」という許可をいただきました。

その頃のN様は、本当にいつ生命が尽きてもおかしくない状況でした。
(食べ物はもちろんほとんど摂取できず、飲み物も極端に摂取量が低下していたからです)。

最期のとき

しかし、N様念願の焼き鳥を食べ、ノンアルコールビールを飲むという願いはかないました。
毎年のように、公園に散歩に行くことは体力低下にともないできませんでしたが、ご家族様と介護士とともに、N様の居室で窓からサクラを見ながら、ベッド上で刻んだ焼き鳥を食べ、わずかなノンアルコールビールを口にされました。

N様「これで今年も春が来た」とおっしゃられた、その数日後、N様は自然に息を引き取られました。
でも、ご家族様も介護士も、やりきった感(達成感)のようなものがありました。

まとめ

看取り介護の体験談の一例をご紹介してみました。今でも思い出すのは、サクラ咲く季節に施設近くの公園に焼き鳥屋の屋台が登場すると、N様が念願の焼き鳥を食べ、ノンアルコールビールを飲んだ数日後に天国に旅立った事です。

N様が元気な頃から体力低下していく、しかし焼き鳥とノンアルコールビールがモチベーションアップに結びついた事例として、看取り介護に関わる介護士の方々の参考になれば幸いです。

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